令和8年度税制改正に関する要望
◆ 要望項目
消費税関係
1 消費税の複数税率制度を廃止し単一税率制度に戻すとともに、インボイス制度導入に伴う各種特例措置の延長等といった中小・小規模事業者への必要な支援を継続すること。
⑴ 消費税における複数税率制度を廃止し単一税率制度に戻すこと。
消費税の複数税率制度は、低所得者への逆進性対策としては非効率であること、歳入を減少させ、その補填のため標準税率のさらなる引上げや社会保障給付の抑制が必要となること、区分経理等により事業者の事務負担が増加していること等の理由から、早期の見直しを図り単一税率制度に戻すべきである。消費税の逆進性の緩和対策としては、必ずしも税制の枠内で解消する必要はなく対策が必要な者に直接給付が出来る仕組みを構築する等、給付面を含めた税制・社会保障制度全体の中で解決することが適切である。
⑵ インボイス制度導入に伴う各種特例措置を延長すること。
インボイス制度の導入に伴い各種の特例措置が設けられたが、制度への深い理解と、価格転嫁の円滑化にはまだ時間が必要であると考えられる。これらの特例は、いずれも短期の経過的な取扱いとなっているが、インボイス制度が定着するまでの感は、特例措置の期限の延長等、中小・小規模事業者への必要な支援を継続すべきである。
① インボイス発行事業者となった免税事業者の納税額を売上税額の2割に軽減する経過措置(2割特例)は極めて小規模な事業者への経過措置として有効である。令和8年10月以降も、消費税制の理解が十分でない事業者に対する特例として継続すべきである。
② 免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置(8割特例)はインボイス発行事業者の登録をしていない者の取引排除の最小化という公正な取引を確保する見地からも現時点では有効であると考えられる中で、令和8年10月から控除の水準を5割に引き下げることは妥当でなく、現在の8割の水準を継続すべきである。
③ 一定規模以下の事業者がインボイスの保存を不要とする特例について、証憑類のデジタル化が進みにくい類型であるため、令和11年9月30日とされている期限に向けて、その延長が検討されるべきである。
所得税・法人税 共通関係
2 賃上げ促進税制に係る控除限度額を拡充すること。
賃上げ促進税制に係る控除上限額は、現行制度では法人税額または調整前事業所得税額20%に制限されている。令和6年度改正では控除限度超過額の5年間繰越控除制度が創設された。新設された繰越控除制度は企業にとって大変有益な措置ではあるものの、賃上げに積極的な企業の経営基盤の強化を図るためには発生年度内での税額控除適用がより効果的である。このため、賃上げ原資の確保を直接支援し、賃上げ意欲の一層の促進のためにも、中小企業者等に限って控除上限額を法人税額または調整前事業所得税額の40%程度まで引き上げるべきである。
災害対応税制
3 雑損控除の適用につき「特定非常災害により生じた損失」については、控除の順番を見直すとともに、繰戻還付制度を創設すること。
雑損控除は、災害又は盗難若しくは横領という納税者の意思に基づかない偶発的な損失による担税力の減少に配慮して、その損失額を所得金額から控除する制度である。また、損失発生年の所得金額から控除しきれない額は、翌年分以後の所得金額から控除される。
課税所得の計算上、現行の雑損控除制度では、災害による損失と盗難又は横領による損失を同じ取扱いとしているが、所得控除すべき災害損失は、費用性資産の滅失損や金銭債権の貸倒れとは異なり、個人の有する住宅、家財等の損害については、担税力の減殺を見出すものであるため被災者の負担軽減及び実額控除の機会を拡大する観点から、まず、最初に災害の有無にかかわらず適用される災害損失以外の他の所得控除を適用し、最後に雑損失のうち特定非常災害により生じた損失につき控除を適用し、より手厚い控除可能性を残すべきである。
また、東日本大震災の際には、「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律」により、純損失の繰越控除の特例及び繰戻し還付の特例が適用された。大規模な災害が生じた場合において、その都度特例的取扱いを行うのでは適時の対応が困難になることから、災害が生じた年分の純損失額の繰戻しによる還付を可能とする恒久的な措置等を検討すべきである。
中小法人税制関係
4 少額の減価償却資産の取得価額基準を引き上げること。
減価償却資産の取得時における少額損金算入の価額基準は、平成10年に、基本となる「少額の減価償却資産の損金算入制度」が20万円から10万円に引き下げられた後、その代替措置や中小法人の特例が導入された結果、複数の取得価額基準が混在することとなった。そのため、税制簡素化の観点も踏まえ、これらの制度を統合して、少額の減価償却資産の取得価額基準を一律とすべきである。さらに、日本経済全体の設備投資を促進して経済の活力を維持・向上、かつ、事務処理の簡素化を実現するためにも少額の減価償却資産の取得価額基準を大企業・中小企業・個人事業者を問わず60万円未満まで引き上げるべきである。
所得税関係
5 所得税の確定申告期限を延長すること。
課税の公平性を求めれば、ある程度制度が複雑化することは避けられないが、所得税の計算が複雑化することは納税者の事務負担が増すこととなる。この公平性と手続負担の問題を両立させるためには、事務負担を軽減すると共に正確な計算に要する時間を確保することも必要であり、所得税の確定申告期限は、現行の3月15日から3月31日までとすべきである。
その際、確定申告に係る納税者等の事務負担を軽減し、併せて、市町村における個人住民税の賦課決定や各種給付、特別徴収義務者における給与計算など後続の事務への影響を緩和する観点から、納税者、税理士及び行政(国・地方)における各種業務のデジタル化を一層推進すべきである。
会員の皆様へ
【税制改正に関する要望】について
税理士会は税理士法第1条に定める「税理士の使命」に基づき、独立した公正な立場において毎年の税制改正に対して建議を行い、この建議のもとに、税理士政治連盟は国会議員に対して陳情を行っています。
この要望書は、税務に関する専門家としての立場から、国民的な視点に立って税理士の総意として取りまとめたものの中から、千葉県税理士会と千葉県税理士政治連盟が、「令和8年度税制改正に関する要望」(令和7年8月25日)としたものです。